私たちの提案

災害対応のマルチセクター化

1. 法改正の目的

災害救助・被災者支援にかかわる国・地方自治体・企業・NPOなどの様々な組織の役割分担の見直し。特に企業・NPOなどが災害救助・被災者支援において公的な役割を担うことを明記したうえで、自治的に災害救助・被災者支援を担い、その費用は公費で賄われる状態を生み出す。

2. 改正を目指す主たる法律

災害救助法、災害対策基本法、災害弔慰金法

3. 改正を目指す主たる条文等(現行法(取り消し線)、改正案(赤字))

災害救助法
(目的)
第一条 この法律は、災害に際して、国が地方公共団体、日本赤十字社その他団体企業、NPOその他の団体及び国民の協力の下に、応急的に、必要な救助を行い、災害の保護と社会の秩序の保全を図ることを目的とする。
(救助の対象)
第二条 略
(救助実施市の長による救助の実施)
第二条の二 略
(都道府県知事による連絡調整)
第二条の三 略
(協議会による救助の実施)
第二条の四 企業、NPOその他の団体が参画する協議会(その構成員、体制、対応能力その他の事情を勘案し、災害に際し円滑かつ迅速に救助を行うことができるものとして内閣総理大臣が指定するものをいう。以下協議会という。)は、第二条に規定する災害により被害を受け、現に救助を必要とする者に対する救助を、第二条および第二条の二の規定にかかわらず、当該区域の都道府県知事または救助実施市の長との連絡調整のうえ、行うことができる。
2 前項の規定による指定(以下この条において「指定」という。)は、内閣府令で定めるところにより、同行の救助を行おうとする協議会の申請により行う。
3 内閣総理大臣は、協議会の指定をしようとするときは、あらかじめ、当該指定にかかわる有識者等から構成される救助協議体指定審議会の意見を聴かなければならない。
4 内閣総理大臣は、指定をしたときは、直ちにその旨を公示しなければならない。
5 前各項に定めるもののほか、指定及びその取消しに関し必要な事項は、内閣府令で定める。

災害弔慰金法
第十条 「災害援護資金の貸付け」を金融機関が実施可能となるよう規定。

災害対策基本法
第九十条の二 「罹災証明書の交付」を民間保険会社が実施可能となるよう規定。

4. 法改正が必要な理由

災害救助・被災者支援における国・地方自治体・企業・NPOなど各セクターの基本的な役割分担は、1947年の災害救助法によって規定され、制定当初から大きく変わっていない。例えば、次に掲載しているのは北伊豆地震(1930年)と熊本地震(2016年)の写真であるが、避難所で大勢の被災者が共同生活を余儀なくされる状況は戦前から現代まで大きく変化のないままであり、個々のプライバシーが守られない等の問題を抱えている。これは世界的にみても極めて低い生活水準にとどまっていると言えよう。

1930年 北伊豆地震避難所(毎日新聞社提供)

2016年 熊本地震避難所

NHK「視点・論点『人道的な避難所設営と運営を』」(2018年6月25日放送)資料:新潟大学 徳仁教授 榛沢和彦先生の解説の中で紹介

災害救助法を中心とした現行制度下では、災害救助・被災者支援は地方自治体が中心となって実施することになっている。例えば、災害救助法の仕組みは、食料や住居など平時は市場で供給されているもの、福祉サービスなど行政・企業・NPOなどが役割分担して供給されているものまで、災害時にはすべて地方自治体のみで供給することが求められている。しかし、高齢化・貧困などの他の社会的課題と異なり、災害という社会的課題は、ある地域にたまにしかこないことが特徴である。そのため、個別の地方自治体には災害救助や被災者支援の専門性が蓄積され難い。結果として、災害が起きるたびに地方自治体が普段は供給することのない財やサービスを専門性がないなか供給することになり、食料・物資・住居・福祉サービスなどの供給は混乱し続けている。結果として、避難所の状況に典型的に表れるように、戦後ずっと災害救助・被災者支援の状況が低水準にとどまっていると考えられる。

さらに地方分権改革のあと、国が直接に災害対応を行うことがはばかられ、地方自治体に助言するにとどまるため、行政内の役割分担も不明瞭である。結果として専門性を蓄積する組織がないことから、社会的な学習が阻まれ災害救助・被災者支援の状況は抜本的に改善されていない。

この状況を変えるために必要なことは、食料・物資・住居・福祉サービスなどの供給について専門性をもつ組織が災害対応・被災者支援に自律的に参画可能とすることである。例えば、現在は流通・小売企業が物資供給に参画するとしても、専門性を持たない地方自治体の指示のもとに業務を実施しているが、物資供給の専門性をもつ企業やNPOが協議会を組み、地方自治体などとの調整のうえで自立的に物資供給を実施し、災害後に発生した費用を公費で賄うならば、混乱は避けられるであろう。さらに、協議会を中心に専門性が蓄積し、物資供給の質は災害の度に向上していくであろう。企業・NPOが参画することで効率化される財・サービスとして、損害保険会社での類似の調査を実施することが多い罹災証明書の交付事務や、リテール取引を行う金融機関に専門性があると考えられる災害援護資金の貸付け事務などが考えられる。

このように、行政、特に地方自治体のみに災害救助・被災者支援の責務を負わせる状況を変え、企業・NPOなども責任をもつ社会に変更し、専門性をもつ組織が社会に育ちうる状況を生み出す必要がある。

5. 法改正によって生み出されると考えられる状況

☑避難所の運営状況の改善(人道援助の国際的な最低水準であるスフィア基準の達成など)
☑罹災証明書の交付や災害援護資金貸付の円滑化(民間企業のノウハウを活用するなど)
☑災害救助・被災者支援の社会としての専門性の向上(支援を自立的に実施する民間組織を中心とした協議会が知識・技能の普及や発展を担うなど)
☑ほかの災害法制の現代化(罹災証明書の区分にのみもとづく被災者支援の見直しや、原稿は重度障害なみである災害障害見舞金の支払い基準の引き下げなど)

6. 参考となる事例

イタリアでは様々な人たちが自ら志願して災害ボランティアとして事前に訓練を受けて登録しておくと、最大7日間の給与と交通費、保険が保障されて被災地に派遣される(登録数は300万人以上)。また雇用者はこのような登録した職能ボランティアを被災地に派遣させる法律上の義務がある。その結果、次の写真のように供与される避難所は人道的に配慮されたものとなり高水準である。

☑塩崎賢明(2018)「《報告》イタリアの震災復興から学ぶもの」災害復興研究, no.10 pp.105-124
☑榛沢和彦(2019)「避難所のあり方、海外との比較:消防防災の化学, no.135, pp7-12

☑菅野拓(2018)「災害時における財・サービス供給のガバナンス構造の理論的検討」地域安全学会論文集, no.33, pp.75-82

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