私たちの提案

社会保障のフェーズフリー化

1. 法改正の目的

災害救助に福祉を位置付けるとともに、被災者支援を社会保障の一環として位置づけ、災害ケースマネジメントに代表される、平時の社会保障をも活用した伴走型の被災者支援を大災害時に必ず実施できるようにする。
※「フェーズフリー」とはいつも利用しているモノやサービスを、災害時に役立てることができるようにつくっておくデザインコンセプト。非常時は発電機・蓄電池として利用可能なように設計されているハイブリッド電気自動車などが代表例。

2. 改正を目指す主たる法律

災害救助法、激甚災害法、被災者生活再建支援法、社会福祉法、生活困窮者自立支援法、介護保険法、障害者総合支援法、住宅セーフティネット法

3. 改正を目指す主たる条文等(現行法(取り消し線)、改正案(赤字))

災害救助法
(救助の種類等)
第四条 救助の種類は、次のとおりとする。
一 避難所及び応急仮設住宅の供与
二 炊き出しその他による食品の給与及び飲料水の供給
三 被服、寝具その他生活必需品の給与又は貸与
四 利用及び助産
五 被災者の救出
六 被災した住宅の応急修理
七 生業に必要な資金、器具又は資料の給与又は貸与
八 学用品の給与
九 埋葬
十 他法に規定されない被災者支援事業
十一 前各号に規定するこののほか、政令で定めるもの

激甚災害法
第二条 公共土木施設災害復旧事業等に関する特別の財政援助
(特別の財政援助及びその対象となる事業)
第三条 国は、激甚災害に係る次に掲げる事業で、政令で定める基準に該当する都道府県又は市町村(以下「特定地方公共団体」という。)がその費用の全部又は一部を負担するものについて、当該特定地方公共団体の負担を軽減するため、交付金を交付し、又は当該特定地方公共団体の国に対する負担金を減少するものとする。
一 公共土木施設災害復旧事業費国庫負担法(昭和二十六年法律第九十七号)の規定の適用を受ける公共土木施設の災害復旧事業

十五 生活困窮者自立支援法に定める被災者支援事業
十六 介護保険法に定める被災者支援事業
十七 障害者総合支援法に定める被災者支援事業
十八 住宅セーフティネット法に定める被災者支援事業

被災者生活再建支援法
第二条「定義」および第三条「被災者生活再建支援金の支給」に罹災証明書の区分に加え、住宅資産および資力要件を規定。

社会福祉法
第百七条 市町村地域福祉計画、第百八条 都道府県地域福祉計画に防災および災害時の対応にかかわる計画を規定。

社会保障関係の各法
以下の内容を被災者支援事業として規定
☑生活困窮者自立支援法:災害時の相談支援および住居確保給付金の災害時支給等
☑介護保険法:災害時の避難にかかわる個別計画策定および災害時の相談支援等
☑障害者総合支援法:災害時の避難にかかわる個別計画策定および災害時の相談支援等
☑住宅セーフティネット法:応急仮設住宅の供与および住宅補修等

4. 法改正が必要な理由

現在は、たまたま住んでいた家が壊れ具合いである罹災証明書の区分(全壊・半壊など)によって多くの被災者支援が規定され、在宅被災者、被災困窮者などとして取り残されてしまう被災者が多くいる。さらに、被災者支援の仕組みは行政中心主義が強く、介護保険法や障害者総合支援法なぢ、措置から契約へと言われる社会保障の変化にも対応できていない。結果、災害が起きるたびに再建できない人がおり、一人一人に寄り添うような支援が模索され、制度をかえる必要性が各現場から求められるに至っている。

ハード中心の制度設計の裏側で、緊急期が終わっても混乱し続ける被災者支援を改善するための処方箋は、以下でみるような災害ケースマネジメントや被災時ケアプランの取組みで先進的に確認できるように、平時の社会保障と被災者支援を連続させることを目指すものである。「社会保障のフェーズフリー化」の基本的な考え方は、平時の脆弱性に対応するものである。「社会保障のフェーズフリー化」の基本的な考え方は、平時の脆弱性に対応する人・チーム・組織が、災害時の脆弱性にも対応するということである。

具体的には、生活困窮者自立支援法、介護保険法、障害者総合支援法などの支援機関が災害時に被災者支援を行うことを各法に規定するとともに、それが実際の災害において可能となるように、平時のトレーニングの仕組みをつくる。また、各種支援計画に避難行動を位置付ける。災害時は急激なサービス需要が生まれるため、地域を超えた応援スタッフの派遣の仕組みも必要となる。

また、現在は厚生労働省の被災者見守り・相談支援事業などを活用して大規模災害時を中心に実施されている、災害ケースマネジメント型の被災者支援の取り組みに代表される、在宅被災者や仮の住まいに入居する被災者への訪問(アウトリーチ)にもとづく適切な社会資源の紹介・調整など、平時に必ずしも実施しない業務が災害時に発生する。そのため災害救助法に在宅避難者への訪問といった福祉的な業務を位置付けることや、その後の中長期的な生活再建を支えるために、生活困窮者自立支援法などに、在宅被災者や仮の住まいに入居する被災者への訪問といった災害時の業務が可能となる規定を置く必要がある。

また、応急仮設住宅やみなし仮設に代表される被災者の仮の住まいへの対応も、平時の社会保障体系の災害時規定として対応する。例えば、厚生労働省の住居確保給付金や、国土交通省の住宅セーフティネット法や居住支援法人の取り組みなど、平時から住宅確保が難しい「生活困窮者」や「住宅確保要配慮者」への対策が進んできている。こういった仕組みを災害時に条件緩和しながら運用することで、平時から住宅支援に関わる担い手の専門性を災害対応に活かすことができる。

その際、たまたま住んでいた家の壊れ具合いを住宅やその資金の供給基準にするのではなく、発災後すぐは、現に居住場所に困っていることを基準とし、その後、時間が経つと、経済状態(例えば納税状況を指標とするなど)や社会的脆弱性の状況(障害者手帳の等級や要介護度など)などを基準とする必要がある。さらに、これらの被災者支援にかかわる財源を激甚災害法などで保障する必要がある。

5. 法改正によって生み出されると考えられる状況

☑要援護者支援の充実(平時の社会保障の担い手が平時の支援水準で被災者支援を実施など)
☑被災者支援の社会としての専門性の向上(平時の社会保障の担い手が被災者支援を担うなど)
☑要援護者支援の充実(平時の社会保障の担い手が平時の支援水準で災害救助・被災者支援を実施など)
☑平時の社会保障との連続性の確保(生活再建後の脆弱性に社会保障各法で対応するなど)

6. 参考となる事例

東日本大震災において仙台市において「災害ケースマネジメント」型の被災者生活再建支援が取り込まれた(図3)。この取り組みに特徴的な点は、生活困窮者自立支援・地域包括ケア・地域共生社会づくりなど、地域福祉の領域において現在盛んに議論されている、行政のみならず様々な主体が連携して福祉サービスを供給することを基盤とする、①個別世帯の状況に応じて伴走型で必要な支援が行われる点と、②多様なアクターが連携し平時施策も含めた多様な支援メニューが組み合わされる点である。具体的には、大量の被災者に対して政策資源を効率的に投入するために、戸別の訪問調査により蓄積した世帯ごとのケースデータにより、上記4類型に分類したうえで、仙台市各部局や仙台市社会福祉協議会、パーソナルサポートセンターなど支援にかかわるアクターが参加する「被災者生活再建支援ワーキンググループ」という会議体により、重点的あ支援の対象となる「住まいの再建支援世帯」と「日常生活・住まいの生活再建支援世帯」を中心に、その生活状況を確認したうえで、世帯ごとに個別の支援計画を策定する。これによって世帯ごとの支援目標や必要な支援メニューを定め、支援を担う各アクターが役割分担したうえで支援にあたる。「被災者生活再建支援ワーキンググループ」は敵機的に開催され、各世帯の支援計画は更新されていき、生活再建を促進させていうというものである。支援メニューは戸別訪問や、民間賃貸住宅の紹介、弁護士相談など災害に特徴的なものから、生活困窮者への就労支援や介護保険法上の支援など平時の福祉施策まで多様である。例えば、失業・低所得・解決が容易ではない生活上の問題などを理由として、最も生活再建が困難な生活者は、生活困窮者自立支援制度を活用することが多かった。

仙台市の災害ケースマネジメント

また、大分県別府市は、当事者・市民団体・事業者・地縁組織・行政の5者協働によって災害時の避難行動などの個別支援計画づくり(「災害時ケアプラン」)を行っている。別府市の取り組みの基本は、災害時の要配慮者対応と平時の障害者福祉サービスを継ぎ目なく連結させることである。そのため要配慮者個人の避難行動などの災害時対応を定めておく個別計画の策定を、普段から障害福祉サービスの利用者のケアプランを策定している相談支援専門員が担っている。

災害時ケアプランは、障害者権利条約の批准によって社会にもとめられるようになった合理的配慮を、平時から災害時のことを考えて提供し、平時と災害時で継ぎ目なく連結させることを志向している。様々なアクターが協働することからもわかるように、災害時の福祉サービスの供給をネットワークによってガバナンスする取り組みである。大分県別府市を先進例とした災害時ケアプランの取り組みは兵庫県でも展開され、広がりを見せている。

☑津久井進(2020)『災害ケースマネジメント ガイドブック』合同出版
☑立木茂雄(2018)「平時と災害時の配慮を切れ目なくつなぐ-排除のない防災へ-」生活協同組合研究,no506,pp.14-21
☑牧紀男(2020)「災害後の生活再建支援基準をどう考えるか?-建物の「全壊」・「半壊」調査の変遷-」日本建築学会計画系論文集,vol85,no768,pp.351-359
☑菅野拓(2015)「東日本大震災の仮設住宅入居者の社会経済状況の変化と災害法制の適合性の検討-被災1・3年後の仙台市みなし仮設住宅入居世帯調査の比較から-」地域安全学会論文集,no27,pp47-54
☑菅野拓(2017)「借上げ仮設を主体とした仮設住宅供与および災害ケースマネジメントの意義と論点-東日本大震災の研究成果を応用した熊本市におけるアクションリサーチを中心に-」地域安全学会論文集,31号,pp.177-186

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