コラム

「被災者支援を通して見えた現場の団体から課題感」

3.11から未来の災害復興制度を提案する会
 代表 阿部知幸(特定非営利活動法人フードバンク岩手)

東日本大震災後、もりおか復興支援センターで、沿岸部から岩手県内陸部に位置する盛岡市へ避難してきた方々の被災者支援を行ってきました。4年間で17500世帯のみなし仮設を訪問し、様々な相談を受けてきました。その中で「被災者とはだれなのか?」という疑問が生じました。

現状では「住宅が壊れた(半壊以上)」が被災者として支援の対象となり、家族が亡くなった、会社が被災し再開を諦めた(倒産)、農地に被害があって使用できなくなった、自営業をしていたがお店が被災したなど、被災者にならなかったために支援が行き届かない人がたくさんいました。

訪問活動をする中で「生活で困ったことがあった時に頼み事をできる人がいるか?」というヒアリングを2012年から2014年にかけて行いました。その結果から、困窮者世帯では頼み事をできる人がいない(孤立している)世帯よりも、頼み事をできる人がいる世帯、つまり社会的なつながりがある世帯の方が経済的困窮から抜け出していることが見て取れました。そこから、大きな災害が起きた時には、伴走してくれる誰かがいることの重要性を強く感じました。

フードバンク岩手資料①

震災から6年が経過した2017年、フードバンク岩手で食料支援を行った件数を人口比率と比較したところ、内陸部と沿岸部では沿岸部の方が人口の比率と比べて経済的に生活に困っている人が倍近く多いことが分かりました。これは、相談窓口がなかった、どのように生活を再建していくか一緒に考え、伴走支援する機関がなかったなど、初期対応の遅さが沿岸部で困窮世帯が多い原因と考えられます。

フードバンク岩手資料②

2015830日、岩手県岩泉町では、台風10号による豪雨災害が発生しました。半壊以上の被害を受けた世帯は、全世帯の4分の1に当たる約900世帯が被災しました。

岩泉町の被災者支援をするにあたって、住居だけではなく、仕事、病気、お金、将来への不安、こころの問題など、ひとりひとりに寄り添った再建方法を考えるケースマネジメントが必要と考え、2016120日に「岩泉よりそい・みらいネット」を設置しました。

行政、社会福祉協議会、生活困窮者窓口、NPOなどマルチセクターで連携し、窓口相談、電話相談、訪問相談、出張相談を行い、被災者一人ひとりが大事にされ、一人ひとりの実情に合った、誰もが大事にされる支援を行いました。

当初は災害ならではの相談が比較的多く、2年目以降は災害ならではの相談は減り、専門家や福祉的な相談や、一つだけで解決できない相談が増え、被災者相談窓口だけで解決できないことが分かってきました。支援を行っていた3年間の合計を見ても、相談のうち3分の1は様々なセクターが関わらないと解決できない相談でした。そして、一人当たり2.3種類の悩みを抱えて相談に来ることも分かりました。

災害対応で職員が疲弊している中で、そのような相談を行政だけで解決に向かっていくことは大変難しいことです。伴走支援など様々な人が関わりを持って分担し合うことでより早い災害復興につながると考えています。

 

フードバンク岩手資料③

「岩泉よりそい・みらいネット」は発災から約4か月後に開設しました。その間に被災者生活再建支援金の受付が始まるなど、誰にも相談できないまま自分たちだけで将来を考えていかなければならないという状態が続きました。被災直後の様々な混乱の中でも、様々な人の意見を聞き、相談していくことで、自分の将来を設計していくことをめざして、今使える制度を正しく使うことができると考えています。

 

今後の課題は、
〇初期対応をいかに早くできるか
 発災から災害ケースマネジメント開始するまでの空白をいかに早く埋めるか
〇支援力と受援力(マルチセクターの協働連携)
 支援の時期と内容(泥出し、ボラセン、物資の量や質)事前の協力関係など
 行政だけではなくNPOや市民団体などが分担し合うことで、負担が一か所に集中することなく
 協力し合える関係性が必要
〇支援の計画や活動がどれくらい浸透しているか
 よりよい支援を行うため行政、社協、NPO、市民が支援計画や制度を事前に理解しているか

だと考えています。

 今までの災害支援から見えてきた災害救助・被災者支援の在り方を見直し、将来の大規模災害を見据え、すべての被災者を支援するための制度をみんなで考えていく必要があると思っています。

 

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