『災害時にも「尊厳」を守る』跡見学園女子大学教授/(一社)福祉防災コミュニティ協会代表理事 鍵屋一
災害対策基本法の「身体」と憲法の「自由」
災害対策基本法(1962年施行)の目的は「国土及び国民の生命、身体及び財産を災害から保護する」となっている。
ところで、「生命、身体及び財産」の文言は、17世紀のイギリスの政治哲学者ジョン・ロックが国家が守るべき基本的人権とした「生命、自由及び財産」に酷似している。ロックのこの文言は日本国憲法第十三条後段「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」へと受け継がれている。
なぜ災害対策基本法は憲法に謳われる「自由」ではなく、「身体」なのか。当時の状況では災害時に自由権を認めることが、実質的に難しいと判断したのかもしれない。
自由は、生命と並び称されるほど重要な権利だ。しかし、近年は根源的な人間の価値として「尊厳」が基本的人権にふさわしい用語と考えられる。事実、近年の社会保障法である介護保険法、障害者総合支援法は、その主な目的を人の「尊厳」を守るとしている。
災害時にも尊厳を守る
災害時には、次のようなことが発生しやすい。
・高齢者の逃げ遅れ・関連死が多い
・障がい児者が安心して避難できる場所がない
・避難所では授乳時には人にジロジロ見られる
・避難所では夜間に女性が安心してトイレに行けない
・仮設住宅では隣の人のトイレの音が聞こえる
・復興住宅では孤立し、寂しいと嘆く人が多い
これらは、人の尊厳を守っていると言えるだろうか。そこで、社会保障の目的と同様に、災害対策基本法及び全国の自治体の防災条例や地域防災計画の目的に「尊厳」を加え、「生命、尊厳及び財産を災害から守る」に変えることを提案する。
「災害は弱い者いじめ」という社会に訣別するためには、尊厳をキーワードに、すべての防災対策を点検、見直すことが重要だ。それが、「災害時にも誰一人取り残さない」社会に近づく一里塚となる。
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